国立研究開発法人水産研究・教育機構増養殖研究所ウナギ種苗量産研究センター桑田センター長に話を伺ってまいりました。
>日本の養殖技術
淡水魚の養殖は紀元前のローマ・エジプト・中国などですでに行われていたが、海産魚介類の養殖技術は1960年代あたりから、国の事業として行われていて、ほぼ日本が開発しているのだそうだ。
元々は国の栽培漁業センターからスタートしている。その背景には、高度成長期で沿岸が埋めたてられ、工場排水の規制もゆるく海が泡立っていて稚魚の住み場がなくなった。人間が悪くしたのだから、人間がケアしなければいけないという考えから、ある程度の数の仔魚(親と同じ骨格が出来ていない段階)を人工的に生育し放流するということを昭和30年代の終わりから国の事業として行われてきた。
養殖技術は水産業の成り立ちと連携しているという。
例えば、ブリの養殖。完全養殖の技術も出来つつあるのだが天然でもまだ稚魚が採れているので産業上は天然の稚魚を採っての養殖が主体である。
マダイは、天然の稚魚が採れることは採れるのだが稚魚を採ってくるより人工飼料の方が養殖業者が扱いやすいのだそうだ。
マダイの人工飼料は昭和40年代に確立された。一番最初に食べる動物プランクトンを探すことに時間がかかるのだそうだ。それが見つかればプランクトンを大量に培養していくことで技術は確立されていくのだそうだ。
マダイが出来たのなら、他の魚も人工飼料が欲しいという流れでその技術を応用してヒラメが出来るようになりトラフグ、クエなども技術応用の展開で確立されているという。
マダイやヒラメは沿岸で産卵する魚であり春になると水深30~50メートルほどの浅いところで産卵し稚魚は浮遊生活をし大きくなると岸によって生活をするという生態が分かっている。マダイやヒラメは稚魚を健康にいい状態の大型水槽で飼育しお年頃になり春になって水が温めば、水槽の中で勝手に産卵するのだそうだ。
養殖は子供(稚魚)がいないと出来ない。天然の稚魚がたくさん採れるのであればその稚魚を捕まえて養殖をすればよいので人工飼料を作ることはないという。
マダイやヒラメは4~5センチに成長した段階で養殖業者へ、それまでは種苗生産業者が行っているのだそうだ。今現在のうなぎ養殖の現状は、100%天然の稚魚に頼っている、稚魚の漁獲量が減少しているので人工飼料による完全養殖の技術研究が進められている。
>うなぎの完全養殖技術の研究
現在のうなぎ養殖は、天然のシラスウナギ(稚魚)を捕獲して養殖場で育てているので、完全養殖ではない。「完全養殖」とは、受精卵を人工ふ化させ、仔魚(親と同じ骨格が出来ていない段階)からシラスウナギ(稚魚)、そして成魚に育成しオスとメスから精子と卵を採取して人工授精、ふたたび受精卵を人工ふ化させる、というサイクルを作ることである。
鰻研究の推移
1930年代:日本の南方海域で産卵場調査
1960年代:ニホンウナギの人工ふ化を目指した研究が始まる
1973年:世界初の人工ふ化に成功(卵を採るところから苦労をした)
1999年:レプトセファルス(幼魚)までの飼育に成功
2002年:世界で初めてシラスウナギ(稚魚)への変態達成
2010年:世界で初めてニホンウナギの完全養殖に成功
2014年:1000リットルの大型水槽による飼育に成功
ここで、すべては書ききれません。たくさんのご苦労話やエピソードもお聞きしました。詳しくは、下記ウェブサイトをご覧いただきたい。
「ウナギ種苗量産研究センター」ウェブサイト
http://nria.fra.affrc.go.jp/RCSEC/index.html
国立研究開発法人水産研究・教育機構ウナギ統合プロジェクトチーム
http://www.fra.affrc.go.jp/unagi/
※こちらには資料等を閲覧できます。
工夫が施された水槽の形状は水替え作業の効率化を図っている。
>うなぎ完全養殖の現在
マダイは出来てるのに、なぜうなぎは出来ていないのか?なんでこんなに時間がかかってるのか?
うなぎは全く違う、今までの技術の応用が利かない卵から仔魚、そしてシラスウナギ(稚魚)という技術は世界でも前例がなく他技術の応用が出来ない。マダイ・シマアジなどは、群れで生活するので群れとして管理すればよいが鰻は個体ごとに個性が違う。実験要素の条件組み合わせが無数にあるとのこと。しかしトライアンドエラーの連続から一歩一歩レベルアップしている。
現在は、うなぎの研究を優先的に進めているとのこと。各増養殖研究所では役割分担と連携をして進めている。
・南勢庁舎(三重県伊勢)
増養殖研究の本丸であり、第一人者である田中秀樹氏を中心に餌の栄養分析研究、遺伝子解析など基礎的な研究を中心に行われている。
・志布志庁舎(鹿児島志布志)
親うなぎの養成と卵を採るところ。養殖業者が多い環境であり、雄親は養殖業者からの手配が容易。(普通に養殖をするとオスになる)メスはシラスウナギ(稚魚)の段階からメスとして養成する。そのシラスウナギ(稚魚)も土地柄手配がしやすい。
・南伊豆庁舎(静岡南伊豆)
仔魚の飼育、シラスウナギ(稚魚)まで生育したものの大半を志布志庁舎(鹿児島志布志)に送るのだそうだ。
■今後の現状の取り組みとしては
・生産率をあげる
マダイ、ヒラメは卵から孵化したところから養殖業者に渡すまで50%ほどの生産率の技術になっている。うなぎは、10リットル水槽で4%ほど、1000リットル水槽では実績が少ないものの1.6%。この生産率をあげていきたいという。
10リットル水槽で生産率がどうか?健全に飼育できたか?というトライアンドエラーを繰り返している。餌の比較実験、飼育条件の比較が行われて、ここで結果が出たものは、1000リットル水槽で採用されていく。ダメなものはすぐにわかるが、よさそうなものは時間がかかるという。よさそうなものの実験の結果がでるまでには1年ほど検証する。
現在、南伊豆庁舎では年間700尾の実績、産業貢献のできるレベルにまであげたい、ここを目指すという。
・サメの卵に変わる代替え餌の開発
餌となるアブラツノザメもたくさんいる魚ではなくサメ卵に依存している以上、生育技術が向上してもサメ卵という餌が大量に手に入らない。鶏卵、魚粉と他栄養素を加工したものでもシラスまで成長はするがサメ卵の成績までは至っていないのだそうだ。
まずは技術の確立を目指し、コストダウンは最後の段階である。生産率を上げ大量に作ることが出来てからコストダウンというステップで進めていくとのこと。
水産業を活性化していくことが課題であり、天然資源を守りながら将来にわたってウナギを安定供給するすることが我々の役目であると話す。
海産業の養殖は日本が世界に誇る技術であり他の国には負けないという意気込みも伝わってくる。今後ますます研究が加速していくことに期待し注目をしていきたい。今回の取材にご協力をいただいた、国立研究開発法人水産研究・教育機構増養殖研究所ウナギ種苗量産研究センター桑田センター長に感謝申し上げます。
【取材協力】
国立研究開発法人水産研究・教育機構増養殖研究所ウナギ種苗量産研究センター
2016.04